2022.03.21

個人事業主が運転資金に利用できる融資の種類と融資を受けるためのポイント

個人事業主が事業を始めるには、運転資金が必要です。運転資金とは、どのような資金でしょうか。また、個人事業主の運転資金に使える融資には、どのようなものがあるのでしょうか。この記事では、運転資金の融資を受けるために必要なことは何か、運転資金の融資目安についても解説します。併せて、個人事業主が運転資金融資を受けるメリット、デメリットも解説しましたので、これから起業する個人事業主の方は参考にしてください。

運転資金とは?

運転資金は、継続して必要になる資金を指します。起業するために必要な資金を事業資金と呼びますが、事業資金は開業資金と設備資金と運転資金に分かれます。事業資金は、新規に事業を始めるために必要な資金で、設備資金は事業を展開するために必要な設備を導入するためにかかる費用です。具体的には、オフィスや店舗を借りるための敷金や礼金、事業用各種機器、パソコンなどのOA機器がこれにあたります。つまり、開業資金と設備資金は開業当初に必要になる資金で、原則として一度だけ使われるものです。継続して使われる運転資金とは、この点が異なります。

たとえば、製造業であれば材料を仕入れる費用が運転資金に当たり、飲食店の場合は肉や魚、野菜などを仕入れる費用がこれに当たります。このほか、従業員の人件費やオフィス、店舗の家賃なども運転資金となります。つまり、運転資金とは、会社が事業を営むために必要な資金のことなのです。そのため、運転資金が足りなくなると、仕入れが出来なくなったり、従業員の給料が払えなくなったり、家賃や光熱費が払えずに、事業を継続できなくなります。このように、運転資金は会社の経営を維持するために、欠かすことのできない資金なのです。

運転資金の考え方

運転資金の中でも、家賃や光熱費、人件費などは、毎月ほぼ同じ金額が必要になります。そして、使用した翌月に支払いとなるのが通常です。しかし、業務を行う上で必要な材料費などは、このような支払い形態にはなっていません。通常は材料などを先に仕入れ、あとで支払う信用取引が行われています。そのため、材料を仕入れても、すぐに支払う必要がないかわりに、商品を売ってもすぐには現金化されません。しかし、材料を仕入れれば、翌月か翌々月くらいには支払うことになります。

この支払いと同時に商品の代金が入れば問題ないのですが、必ずしもそうなるとは限りません。また、事業を始めたばかりの頃は、思ったように売り上げが上がらず、仕入れ代金や家賃、光熱費、人件費だけが出ていくこともあります。つまり、事業を始めてしばらくの間は、赤字が続くと思ったほうがいいのです。この赤字を穴埋めするための資金が、運転資金と呼ばれます。事業を起こす際は、開業資金ばかりに注目しがちです。

もちろん、開業資金を調達することも大切ですが、赤字分を穴埋めする運転資金も、おそろかにすることはできません。開業する際は、どのくらいで経営が軌道に乗るか予測しますが、この予測の範囲を超えて売上低迷が続くと、運転資金が枯渇してしまいます。こうなると、事業が立ちいかなくなるおそれがあるので、継続的に運転資金を調達できる準備を、しておく必要があります。

変動費と固定費

運転資金には、大きく分けて変動費と固定費があります。この違いをご説明しましょう。

変動費

変動費とは、売上によって変動する運転資金のことです。売上が上がれば材料も多く仕入れなければならないので、材料費が上がります。反対に、売上が下がれば仕入れる材料も少なくなるので、材料費は下がります。場合によっては、製造の一部を外注に委託しているケースもあるでしょう。この場合は、外注費も売上によって、上がったり下がったりします。これをまとめると、以下の経費が変動費に含まれることになります。

  • ・材料費
  • ・外注費
  • ・残業代
  • ・消耗品代
  • ・商品運搬費

ここに挙げた「残業代」というのは、売上増による時間外労働にかかった費用のことです。また、売上増により消耗品も多く必要になり、商品運搬にかかる費用も増えていきます。

固定費

固定費は、売上が上がっても下がっても、変わらず必要な経費のことです。以下のような経費が固定費に含まれます。

  • ・従業員の給料
  • ・家賃
  • ・OA機器や事業用機器などのリース代
  • ・広告費
  • ・火災保険などの保険料
  • ・減価償却費
  • ・水道光熱費

給料や広告費、水道光熱費などは、毎月同じ金額ではありませんが、だからといって変動費には該当しません。固定費は、「売上高に比例しない」だけでなく、「事業活動をしてもしなくても、一定額が発生する」ものを指します。

運転資金と設備資金の違い

運転資金と設備資金は、混同しやすいので注意が必要です。設備費用は、オフィスや店舗などの設備にかかる費用ですが、具体的には以下の費用が該当します。

  • ・オフィスや店舗の拡張
  • ・事業に必要な機器の導入
  • ・社用車購入
  • ・不動産購入
  • ・OA機器の導入やシステム開発

運転資金と設備資金の違いは、運転資金が日々の事業運営のために必要な費用であるのに対して、設備資金は決算上、会社の資産として扱われることです。運転資金と設備資金は、似ている点があるので混同されがちですが、決算上異なるので、金融機関から融資を受ける際などは、しっかり区別する必要があります。

運転資金の種類

ひと口に運転資金と呼ばれますが、運転資金には「経常運転資金」「増加運転資金」「減少運転資金」「季節運転資金」「設備未払金決済運転資金」の5つの種類があります。1つずつ説明していきましょう。

経常運転資金

経常運転資金というのは、一般的な運転資金のことです。材料を仕入れ、商品を製造してから、販売して売上になるまでに、ある程度の時間がかかります。まだ売上金が入らなくても、仕入れの代金は支払わなくてはならないので、その支払いのための資金をプールしておく必要があります。その資金が経常運転資金なのです。また、仕入れ代金以外にも、家賃や人件費、光熱費なども、経常運転資金に含まれます。

増加運転資金

売上が急増した際に、必要になるのが増加運転資金です。会社にとって、売上アップは喜ばしいことですが、急に売り上げが上がると、仕入れ費用も急激に上がってしまいます。売上分がすぐに入金されれば問題ありませんが、すぐには入らないので、資金不足になると次の仕入れができず、せっかく売れ行きが好調なのに、生産がストップしてしまうこともあります。

そうならないために使われるのが、増加運転資金なのです。売上が伸びているのに、次の生産のための資金が追いつかないと、最悪の場合黒字倒産することにもなりかねません。どの会社も売上を伸ばそうと必死ですが、売上アップばかり考えて、資金繰りがおろそかになると、会社が空転してしまうので注意しましょう。

減少運転資金

売上が減少すると、しだいに入金が減っていきます。しかし、売上が減っても、人件費や家賃、光熱費などは支払わなければなりません。このように、売上が順調なら難なく支払いできたのに、売上が減少したために、支払えなくなった場合に備えるのが減少運転資金です。一時的な売上減ならいいのですが、継続して売上が落ちる状態が続くようなら、減少運転資金を調達しないと会社の経営が危うくなります。もちろん、売上が減少したら、売上アップのための対策も必要ですが、それと同じくらい重要なのが、減少運転資金の調達です。

季節運転資金

業種によっては、季節ごとに繁忙期と閑散期がある場合があります。冬物を扱っていれば、秋口から忙しくなり、春先から暇になります。このように、年間の売上が時期によって変動する業種では、繁忙期が近づくと仕入れのために、多額の費用を用意しなければなりません。このような、時期的な資金調達のために必要なのが季節運転資金です。また、従業員に支払うボーナスも、支払いの増える時期とそうでない時期に分かれるので、季節運転資金と見ることもできます。季節運転資金は、あらかじめ必要な時期がわかっているので、前もって準備しやすい運転資金と言えるでしょう。

設備未払金決済運転資金

設備投資の返済が滞った際に必要なのが、設備未払金決済運転資金です。本来、設備投資の費用は、設備資金から捻出するものですが、規模や金額によっては、通常の運転資金として計上することもあります。設備資金として借り入れせず、設備を購入したものの、半年以上未払いが続くと、設備未払金決済運転資金を使って支払うことになります。

その他の運転資金

上記以外にも、運転資金にはいくつかの種類があります。

スポット資金

増加運転資金や季節運転資金も、スポット的に使われる運転資金ですが、これ以外に何かイレギュラーな事態が起きたときに、使われる運転資金です。「普段は仕入れない高額な商品の仕入れ」や、「急にイベントを行うことになった」場合などに必要になります。

条件が悪化した場合の追加運転資金

取引先からの入金が滞り、売掛け債権が増えた場合や、不良在庫を抱えた場合、取引先から急に現金払いを要求された場合などに、緊急で充てるのが追加運転資金です。通常は、一時的に状況が改善するまでの間の、運転資金として使われます。

個人事業主の運転資金に使える融資とは?

では次に、個人事業主が、運転資金の補填に使える融資について解説しましょう。

日本政策金融公庫「新創業融資制度」

新創業融資制度は、日本政策金融公庫が実施している融資制度です。起業したての人でも申し込みが可能で、しかも金利が低いので多くの人に利用されています。金利は2.41~2.80%程度ですが、中には1%台の利率で融資してもらえるケースもあるようです。起業前か起業後税務申告2期目未満の事業者が申し込めます。担保なし、保証人なしで融資が受けられるので、申し込みやすい融資です。

ただし、新創業融資制度に申し込むには、融資希望額の10分の1以上の、自己資金があることが条件となります。融資額は最大3000万円まであるので、いろんな事業に活用できます。審査が下りるまでの期間は、2週間~2カ月ほどかかるので、申請する際は余裕を持って申し込みましょう。ただし、審査通過率は50~60%程度なので、あまり高くはありません。そのため、融資を受ける場合は、他の融資も並行して申し込むようにしましょう。

日本政策金融公庫「中小企業経営力強化資金」

中小企業経営力強化資金は、起業間もない経営者が低金利で受けられる融資です。担保なし保証人なしで個人事業主も利用できるので、融資を受けたい方は申し込んでみましょう。融資限度額が7200万円と破格の金額なので、まとまった資金が欲しい方に向いています。金利は1.66%~2.05%と非常に低く、会社の経営を圧迫しないで返済できるのが魅力です。また、場合によっては、1%以下の金利で融資が受けられることもあるようです。

最大融資額7200万円のうち、運転資金に4800万円も使えるので、人件費や家賃などの、固定費の出費に悩んでいる事業者におすすめです。ただし、運転資金として借りると、返済期間が7年以内と短くなっているので注意しましょう。ちなみに、設備資金として借りた場合は、20年以内の返済が条件となっています。審査から、1~2週間で融資してもらえるケースが多いのですが、まれに時間がかかる場合もあるようです。

日本政策金融公庫「マル経融資」

マルル経融資は、基準利率が1.21%と低金利で、しかも審査期間は2週間なので、スピーディに融資が受けられます。日本政策金融公庫と「日本商工会議所」が共同で融資する制度で、借り入れするのに担保も保証人も必要ありません。融資額は最大2000万円までで、設備資金でも運転資金としても利用可能です。運転資金として借り入れすると、返済期間は7年以内、設備資金の場合は10年以内に完済しなければなりません。ただし、申し込むには、以下の条件をクリアする必要があります。

  • ・日本商工会議所への加入
  • ・商工会議所から6ヵ月以上の経営指導を受けること
  • ・商工会議所からの推薦を受けること

このように、申請条件が厳しいのが、マル経融資の難点です。

ビジネスローン

ビジネスローンは、審査スピードが速いのが特徴です。資金が足りなくて、すぐ融資を受けたいときに重宝するのがビジネスローンです。ビジネスローンは、必要な書類が揃っていれば、最短即日~1週間程度で融資が受けられます。ビジネスローンの融資限度額は、最大で500万円程度ですが、中には1000万円くらいまで、融資可能なローンもあります。運転資金が不足すると、すぐ補填する必要があるため、スピーディに融資してもらえる、資金調達法を知っているのは重要なことです。

緊急で資金を調達できないために、事業が暗礁に乗り上げることもあるのです。ただし、ビジネスローンは、日本政策金融公庫などの融資と比較すると、金利が高めになっています。担保がない場合は、銀行系のビジネスローンで年率3~14%程度、ノンバンク系のビジネスローンの場合、6~18%程度の金利が発生しますから、利用する際は注意しましょう。

新型コロナウイルス感染症関連でも使える融資がある

新型コロナウイルス感染症蔓延のために、多くの事業者が経営不振に陥っています。新型コロナの影響で新たな融資が必要な人は、以下の助成金や補助金を申請してみましょう。

持続化給付金

持続化給付金は、新型コロナの影響で、前年同月と比較して収入が半分以下になった個人事業主向けに、最大100万円まで支給されます。返済は不要なので、新型コロナの影響で資金繰りに困っている人は、ぜひ申し込みましょう。

新型コロナウイルス感染症特別貸付

新型コロナウイルス感染症特別貸付は、日本政策金融公庫が実施している融資制度です。新型コロナの影響で、売上が落ち込んだ個人事業主が受けられる融資で、最大8000万円まで借り入れが可能です。無担保で融資が受けられる上に、4000万円までなら融資後3年間は、基準金利0.9%の低利で借りられます。

また、条件を満たせば、実質無利子になる制度もあるので、ぜひ申し込んでみましょう。ただし、融資ですから返済が必要で、審査も受けなければなりません。審査を受ける際は、返済計画書や業績回復のための事業計画書などの提出を求められるので、しっかりした計画書を作成して審査に臨みましょう。

運転資金の融資を受けるために必要なこと

運転資金の融資を受けるには、まず金融機関の審査を通過しなければなりません。そのためには、綿密に事業計画書を作成する必要があります。事業計画書がしっかり作成できていれば、融資した金額の返済が可能であることを認めてもらえます。この点がクリアにならないと、融資には結び付かないので、融資担当者の信用を得るためにも、事業計画書の作成は重要です。

融資を受けたら、毎月の返済は必ず返済期日までに、実施しなければなりません。返済が遅れると、金融機関からの信用を失ってしまうので、十分注意しましょう。また、返済が滞ると履歴として残るため、今後金融機関で融資を受ける場合に、審査が厳しくなるので気をつけたいものです。

運転資金の融資目安と計算方法

ここでは、運転資金の融資目安と、計算方法について解説します。計算方法を知っていれば、必要な運転資金額を算出できるので、資金繰りを安定させることができます。

運転資金の計算式

運転資金を正確に算出できないと、必要な材料が仕入れられなくなったり、人件費や家賃などが払えなくなることもあります。そのため、常にどれだけの運転資金があればいいのか、把握しておく必要があります。運転資金は、以下の計算式で算出することができます。

「運転資金=売掛金+在庫-買掛金」

  • ・売掛金とは、商品を売ってまだ取引先から回収していない代金
  • ・在庫とは、製造したのにまだ売れていない商品
  • ・買掛金とは、まだ支払っていない仕入れ代金

これを上記の計算式にあてはめると、
・「売掛金+在庫」は、これから入る予定の金額
・「買掛金」は、これから支払う金額
ということになります。

わかりやすく言うと、運転資金とは、「これから入ってくるお金」から「これから支払うお金」を引いた金額になります。この計算の結果がマイナスになれば、その分を運転資金で補填しなければなりません。この中で、売掛金の金額が大きい場合は、回収できていないお金が多いということになります。このお金は将来回収できる予定になっていますが、本当に回収できるかどうかは、会社の口座に着金するまでわかりません。

というのは、売掛金を残したまま、取引先が倒産することもあるからです。そのため、運転資金を用意する際は、万が一のことを考えて、売掛金が回収できない場合の対策も、考慮しておく必要があります。同様に、在庫も近い将来売れるはずの商品ですが、必ず売れるという保証はなく、不良在庫になることもあるので注意が必要です。このように、売掛金と在庫は未回収の資金ではありますが、必ず回収できるとは限らないことを覚えておきましょう。

運転資金の目安

どれくらいの運転資金が必要なのかは、事業内容によって変わります。たとえば、飲食店の場合は、仕入れから資金回収までの期間が短いので、それほど多額の運転資金を必要としません。しかし、不動産業などのように、大きな金額を投資する事業の場合は、資金を回収するまでに長期間かかるので、運転資金の金額も大きくなります。運転資金は、売掛け金の回収に時間がかかったり、不良債権などのトラブルが発生しても、事業を継続していくためのものなので、なるべく多くの運転資金を用意するのが理想です。ちなみに、運転資金は通常、3~6カ月分用意すればよいとされています。

個人事業主の運転資金融資を受けるメリット・デメリット

これまでに説明しましたように、個人事業主が運転資金を受けると、さまざまなメリットがありますが、その反面デメリットもあります。では、どんなメリットやデメリットがあるのか、詳しく見てみましょう。

メリット

日本政策金融公庫などの公的機関で融資を受けると、民間の融資より金利が低いのがメリットです。金利が高いと返済の負担が大きくなり、経営を圧迫するおそれがあるので、低金利で借り入れできるのは大きなメリットと言えるでしょう。また、長期にわたって借り入れできる上に、返済しなくてもよい期間がある融資もあります。これは、公的機関でなければ得られないメリットです。また、日本政策金融公庫などの融資は、中小規模事業者でも受けられるのが特徴です。

つまり、民間の融資と違って、会社としての実績がなくても融資が受けられるのです。これは、日本政策金融公庫などの公的機関が、中小企業の活性化を推進しようとしているからです。日本政策金融公庫では、事業の大小で融資するかどうかを判断するのではなく、事業の将来性や、事業計画の確かさなどを考慮して融資しています。この点が、民間の金融機関と大きく違います。また、日本政策金融公庫のような公的機関の融資では、民間と違って無担保無保証人でも、融資が受けられるのが大きな特徴となっています。

デメリット

日本政策金融公庫などの公的機関で融資を受けるには、厳しい審査を通過しなければなりません。民間の場合は担保を要求するので、審査自体はそれほど厳しくありません。もし返済できなければ、担保を押さえればいいからです。しかし、日本政策金融公庫のような公的機関では、無担保・無保証人の融資が多いので、その代わりに書類の審査が厳しくなります。

また、日本政策金融公庫のような公的機関の融資は、実際に借り入れできるまでにかなりの日数を要します。民間の融資では、数日で借り入れできる場合もありますが、公的機関では数週間~1カ月以上かかるのが通常です。そのため、緊急で融資が必要な場合には、間に合わないのもデメリットと言えるでしょう。

まとめ

事業を始めるには、運転資金が必要です。運転資金には、変動費と固定費があります。また、運転資金にはさまざまな種類があります。個人事業主の運転資金に使える融資もいくつかあるので、事業を開始する前に申し込むといいでしょう。運転資金は3~6カ月分用意しておくと安心なので、開業前に準備しておくことが大切です。


個人事業主・運転資金・融資